カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説

本記事では、カーボンニュートラルの意味からカーボンオフセットやカーボンフットプリントとの違い、企業の取り組み事例についてご紹介いたします。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、多様な経済活動を継続しながら温室効果ガスの放出を減らし、さらに放出している温室効果ガスの同量以上を除去・吸収することです。カーボンニュートラルの実践は、気候変動を緩和することを目的としており、生活の多くの分野に適用できます。名前が付けられた慣行は、2006年にリチャードハインバーグが著書「The Party’s Over:Oil、War and the Fate of Industrial Societies」で最初に提案したものです。

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説
The Party's Over: Oil, War and the Fate of Industrial Societies

その後、この用語はより一般的になり、学校、オフィス、企業、およびカーボンニュートラルを実践している個人で使用されるようになりました。

 

カーボンニュートラルという用語は、排出と除去・吸収のバランスを指すためにも使用されますが、大気から温室効果ガスを除去するプロセスは、炭素隔離と呼ばれます。

カーボンニュートラルの歴史的経緯

2001年、京都議定書の下で、各国は温室効果ガス排出量を1990年のレベルより少なくとも5%削減することに合意しました。この議定書は、カナダが2010年までにカーボンニュートラルになることを意図してカナダによって批准されました。米国は、事業費と執行メカニズムに関する懸念を理由に、京都議定書に署名しませんでした。 2009年12月、ハーパー前首相は、アメリカ政府が京都議定書から撤退する意向であると発表しました。

この京都議定書は、2008~2012年の期間を対象としたものでした。結果として2012年時点で温室効果ガスの排出量を削減することはできませんでした。

その後、2015年にCOP21で、世界約200ヶ国が合意して、パリ協定が成立しました。

パリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑えるとともに、1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続すること、このために、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源 による排出量と吸収源による除去量との間の均衡(世界全体でのカーボンニュ ートラル)を達成することを目指すこと等を定めている。

日本としては、2020年に「2030年度に 2013年度比-26%(2005年度比-25.4%)の水準にする削減目標を確実に達成することを目指す。また、我が国は、この水準にとどまることなく、中期・長期の両面で温室効果ガスの更なる削減努力を追求していく。」とNDC(国が決定する貢献)を決定しています。

温室効果ガスとは

大気中に放出される主な温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボンまたはパーフルオロカーボン、および六フッ化硫黄です。

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説

二酸化炭素はこれらのガスの中で最も一般的であり、全排出量の約85%を占めています。二酸化炭素は、自動車のエンジン、石炭や天然ガスなどの化石燃料を燃焼する発電所、などによって生成されます。また、メタンは埋め立て地や牛のGHG排出物などを発生源に生成され、亜酸化窒素は土壌中の肥料によって生成されます。

カーボンニュートラルに向けた取り組み

1. カーボンニュートラル発電

ガスの脱炭素化に向けた活動として、カーボンニュートラル発電所が注目されています。発電所の目標は、再生可能エネルギーを使用して発電し、それが従来の発電所で生成した二酸化炭素を再利用することです。具体的にはメタンを使用します。メタンは水素と二酸化炭素を反応させることによって生成されます。生成されたメタンを使用した発電で、二酸化炭素は排出されてしまいますが、メタンの生成時に使用した二酸化炭素と相殺され、実質の排出量はゼロになります。このようにして、カーボンニュートラル発電所は追加の温室効果ガス排出を生成しません。

2. Appleの取り組み

企業単位でもカーボンニュートラルへの取り組みは広がっています。2020年7月に、Appleが2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成に向けた計画をプレスリリースしました。自社に閉じた公約ではなく、サプライヤーに対しても再生可能エネルギーの使用を求め、サプライチェーン全体を通じて、取り組んでいく、という姿勢を表明しています。

アップル単体で見た場合、既に事業所の活動では、カーボンニュートラルを達成しており、さらに110社以上の製造パートナーが20330年までにアップル製品の製造は、100%再生可能エネルギーに切り替える事を発表しています。

3. 温室効果ガスの再利用方法

米国西部などの一部の地域では、メタンの収集と再利用の取り組みが行われています。これらの取り組みは、メタンへ水分を注入または保持(いわゆる「バイオリファイナリー」のアイデアに従ってガスを処理する)することで、メタンを抽出する方法や、またはバイオガスからメタンを抽出する(新しい分子を合成する)方法などがあります。

 

カナダでは、ある会社が二酸化炭素除去プラントを運営し、石油増進回収に使用するために石油産業にCO2を販売しています。

 

炭素隔離は、大気や海洋から二酸化炭素を除去し、それを岩石、地下の地層などの安定した材料、または合成/工学材料に保管し、長期的な地質隔離プロセスとして二酸化炭素を保管するプロセスです。

炭素隔離の主な目的は、温室効果ガスの排出を削減し、二酸化炭素の大気中濃度を安定させて、人間に深刻な影響を与えるレベルの気候変動を回避することにより、地球温暖化を制限することです。

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説

カーボンオフセットとカーボンニュートラルの違い

カーボンオフセットとカーボンニュートラルの違いは、カーボンオフセットは主に排出量の補償に関するものであるのに対し、カーボンニュートラルはそれらを補うことを意味するということです。

 

本記事でも紹介してきた通り、排出量を削減するためのさまざまな取り組みがありますが、削減できない領域がいくつかあります。そのような領域では、カーボンオフセットという考え方が使用されています。カーボンオフセットとは、まずは温室効果ガス排出を削減する努力をした上で、どうしても発生してしまう温室効果ガスの排出については、排出力に見合った温室効果ガスの削減活動に投資する事により、埋め合わせをする、という考え方です。

埋め合わせは、カーボンクレジットを購入するか、新しいカーボンオフセットプロジェクトに資金を提供することによって行われます。

企業や政府は、投資をすることで、排出量の削減のためにより多くのリソースを投資する必要がなくなり、他のプロジェクトに集中できるようになります。

カーボンクレジットの販売元としては、従来の排出量よりも多くの削減効果を生み出した企業等になります。たとえば、航空会社が通常の飛行機から、水上飛行機に切り替えた場合、水上飛行機は通常の飛行機よりも温室効果ガスの排出量が少ないので、削減分をカーボンオフセットとして販売することが可能です。ただし、企業は気候変動に関する国際連合フレームワーク条約(UNFCCC)のクリーン開発メカニズム(CDM)理事会から承認を得る必要があるため、このプロセスには費用がかかる可能性があります。

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説

米国では、カーボンオフセットを求める企業は、環境保護庁(EPA)の許可を得る必要があります。 2012年の時点で、米国には9,000以上のオフセットプロジェクトがあり、年間約15億ドルの価値があります。

カーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリント

カーボンニュートラルに向けた取り組みにおいて、まず重要になるのはどれだけの温室効果ガスを排出しているのかを、明確に把握することです。消費者や事業者が排出する温室効果ガスの排出量を算出した指標のことを、CFPと呼んでいます。

CFP(カーボンフットプリント)とは、Carbon Footprint of Productsの略です。

アップルのようにサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを実施する際にも、CFPでの温室効果ガスの排出量があったかを基準にしています。

また、これは企業のみではなく個人消費者にも意識してもらえるように、取り組んでいる企業もあります。例えば、エネルギー効率の高い照明や家電製品にはその旨のクレジットを表示し、消費者の目にも止まるようにしている企業もあります。

まとめ

2000年代以降、全世界的に温室効果ガスの排出量が問題視され、削減に向けた様々な動きがあります。その中でも、温室効果ガスの排出量と削減または使用量を同一にすることで、一点の活動において、温室効果ガスを増加させない、という取り組みをカーボンニュートラルと呼びます。

国単位だけではなく、アップルのような世界的大企業も主導して、2030年までにカーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーの使用や温室効果ガスの削減に取り組んでいます。

カーボンニュートラルとは?企業の取り組み事例やカーボンフットプリントとの関連まで、まとめて解説
著者情報

山上 玲奈(株式会社レクサー・リサーチ マーケティング担当)