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それは本当か?トヨタ生産方式は時代遅れ?
アメリカの著名な自動車業界ジャーナリスト、ジョン・マッケンロイ(John McEnloy)が昨年11月に「トヨタの教えを忘れよう」(Unlearn what Toyota thought us)という記事を発表し反響を呼びました。
アメリカの著名な自動車業界ジャーナリスト、ジョン・マッケンロイ(John McEnloy)が昨年11月に「トヨタの教えを忘れよう」(Unlearn what Toyota thought us)という記事を発表し反響を呼びました。内容を要約しますと「フォードが開発した生産方式をトヨタは新しいレベルへ引き上げ、欧米の自動車業界は過去数十年トヨタ生産方式を学び導入することにより生産性を向上させることができた。トヨタの貢献に我々は感謝しなければいけない。ただし、テスラが新しい方式を開発し、開発スピードを全く新しい次元へ引き上げた。トヨタ生産方式に固執せずに、テスラの手法を導入しなければいけない。」となります。
トヨタ生産方式の真髄はプロセスを安定化させ、生産性を上げるために、デザインを生産開始の1年前から凍結させ、次回モデルチェンジまでの期間、スペックの変更をいたしません。テスラではスペックを凍結することがなく、常にモデルが改良されます[1] … Continue reading。そして、それらの改良は生産コストの低減に結びついています。一例として、電気系のアーキテクチャーがモデルごとに改良されている事実が挙げられています。従来の自動車業界では一度確立された電気系アーキテクチャーは容易に変更されず、何世代か持続されることが常識でした。テスラでは、新車種の導入と共に新しい改良されたアーキテクチャーが採用されています。ケアソフト・グローバル社が実施したベンチマーク調査結果では、テスラは電気系アーキテクチャー改良により1台あたり300ドルのコスト削減効果を実現していると発表されています。トヨタ生産方式では数年間デザインされたコストが凍結されるのに対して、テスラではコストダウンがドンドン進められるのです。欧米の自動車会社はそろってテスラ方式を学び導入しようとしていると記事は結んでいます。
電気自動車の影に潜んだテスラの秘密
ウオールストリートのアナリストの一部は、電気自動車スタートアップはテスラの目覚ましい成功を再現できると信じ、電気自動車スタートアップ各社を高く評価をしています。また、投資家の一部は、自動車会社大手が電気自動車に本腰を入れると、テスラは線香花火に終わってしまうと予告し、ショートポジション戦略をとっています[2] … Continue reading。どちらも電気自動車が成功の要因だと解釈しているのです。ところが、マッケンロイが指摘するように、テスラの成功の鍵は必ずしも電気自動車ではないのです。「電気自動車を開発したからテスラが成功した」のではなく、「テスラが新しい開発方式を導入したので電気自動車が成功した」と考えるべきなのです。ではテスラの成功の要因とは何なのでしょうか?
イーロン・マスクのインタビュー
MITでAIの講師を務めるレックス・フリードマンが、彼のPodcastでイーロン・マスクをインタビューしました。このインタビューでイーロン・マスクが説明した彼の開発手法が話題になっています。イーロン・マスクはまず奇抜なアイデアを出します。そして、このアイデアを、ファースト・プリンシプルを使って検証します。ファースト・プリンシプルとはギリシャの哲学者アリストテレスが推奨した、実績にこだわらず、原理原則に基づいて検証する手法です。イーロン・マスクは物理の原理原則とITのロジックを使い検証すると証言しています。検証の結果、成功する道のりは未知数でも実現可能であると判断すると、プロジェクトを起こします。
ここで注目しなければいけないことは、イーロン・マスクも一発勝負で成功しているのではなく、無数のアイデアを出し、検証し、ふるいにかけられて生き残った、限られた数のアイデアがプロジェクトとして日の目をみているということです。プロジェクトが始動すると、目標達成した理想的な状況がイメージされます。
次に、その状況を達成するために必要なステップを逆算して割り出します。例えばロケットの軟着陸と再利用が目標だとします。理想像はロケットが軟着陸しますと、旅客機のように燃料を給油するだけで、短時間で次のスタートが可能なことです。即ち、大掛かりなメンテナンスが必要では困ります。スペースシャトルは膨大なメンテナンスが必要で経済性が成り立たず廃止になりました。メンテナンスが必要ないためには、フランジとネジは禁物です。すると、フランジとネジがないロケットタービンが求められます。そこでスペースXは3Dプリンターでネジ、フランジがない一体化されたロケットエンジンを企画しました。つまり、「現状の技術をどのように改良すれば良いか?」と考えるのではなく、「理想的な目標達成状況をイメージして、逆算して、その状況を到達するためには何が必要か?」と発想の転換をするのです。
「市場に出回る部品を組み合わせてシステムを作ることは、市場の常識に束縛されたエンジニアリングである」とイーロン・マスクは説いています。常識に囚われないエンジニアリングを実現するために、自前主義を徹底します。少なくともプロジェクトを成功させるために絶対に必要な要素は自分でコントロールするのが、マスクの成功の方程式です。また、「成功の目処が事前に立つような、志の低いプロジェクトでは競争力を産まれない」など幾つもの新しい考え方を導入しています。私達が教わったエンジニアリングは実績を尊重し、実績の近接領域にリスクの少ない新しいコンセプトを少しずつ上乗せする方式を過去100年以上守ってきました。
イーロン・マスクはこの常識化し、誰も疑わないコンセプトを離れ、全く新しいコンセプトを考えたのです。実績主義が過去へ目を向けるのに対して、イーロン・マスクは将来実現したい理想的な状態に集中し、実現する手段を考えることにより、開発スピードを驚異的レベルへ高めています。自動車会社大手が電気自動車を開発すると、テスラに追いつき追い越すのは時間の問題という意見が、非現実的であることが最近の情報で分かってきました。現在は、どうしたら開発スピードをテスラのレベルへ高め、生き残れるかが欧米自動車会社の課題となっています。
欧米自動車企業ナンバーワンであるフォルクスワーゲン社は、2021年末にトップマネジャー300名を集めたミーテイングへイーロン・マスクを招待しました。フォルクスワーゲン社長ディース氏はイーロン・マスクの話を直接聞く機会を設け、トップマネジャーの意識改革を試みたと報告されています。あるドイツ自動車メーカーの役員は覆面で「テスラに追いつくことは不可能かもしれない」と供述したそうです。「不可能」とは、自動車企業の組織、意識、業務の改革が、競争力を維持するために必要な時間枠以内に実現しないことを意味します。何故テスラではそのような劇的な地殻変動が可能なのでしょうか?
サイバーフィジカルシステムが世界を変える
テスラはソフトウエア業界で90年代後半に開発された、2002年にアジャイル宣言(Agile Manifesto)にて公表されたアジャイル開発方式の自動車業界 への導入に成功したのです。アジャイル開発方式はアジャイル宣言の12箇条を要約すると下記の4点にまとめられます:
⁃ 個人とコミュニケーションをプロセスとツールより尊重する
⁃ 機能するソフトウエアを詳細な仕様書より重視する
⁃ 顧客との協力を契約書作成会議より重視する
⁃ 変化に応答することを、計画を実行することより重視する
ここで「プロセスとツール」とは組織の都合を意味します。組織の都合で設定されたプロセスとツールの束縛から解除されることがアジャイルです。
「機能するソフトウエア」とは、目標達成をチャンクダウンした際定義される最小実行可能ユニット(minimal executable unit)を意味します。最小実行可能ユニットを出来るだけ短時間で作成して、(顧客と共に)検証し、柔軟に目標仕様を変更し開発スピードを高めることがアジャイルです。
「顧客との協力」とは、プロジェクト発足時点では未知の目標達成条件を、顧客と最小実行可能ユニットの検証実験結果の合同評価を踏まえて順次プロジェクト仕様に組み込むことを意味します。つまり、プロジェクトの仕様書は流動的に変容することがアジャイルです。
「変化に応答する」とは、絶えず最小実行可能ユニットの定義と検証の試行錯誤を繰り返し、柔軟に変化に対応することを意味します。そして、変化とはテスト結果として当初予期しなかった事実にめぐり当たることを意味します。
製造業は長年、アジャイル生産方式に対して冷ややかな目を向けていました。「ビットとバイトは自由簡単に変調できるが、原子(ハードウエア)はそう簡単に変調することができない」という言い分でした。ところがテスラはそれが可能なことを実証したのです。その秘密は何でしょうか?
サイバーフィジカルシステム(CPS)
結論から入りますと、イーロン・マスクとテスラは過去の実績を捨てて、アジャイル開発方式を製造業に導入するために、理想的目標達成状態から逆算して組織、仕事の仕方、評価システム、検証テストのあり方など、全てを変更したのです。そしてこのテスラ生産方式を可能にするバックボーンがサイバーフィジカルシステム(CPS)なのです。テスラでは全てが流動的です。そしてセルフマネジメントとセルフオーガナイゼーションの概念が実現しています。それを支える数少ない指針は
⁃ 誰とでも自由にコミュニケーションを取ることが許されている。それを束縛し妨げる者には会社を去ってもらう。
⁃ 自分で自分の才能を使いボトルネックを解決するプロジェクトを立ち上げる、もしくは自分のスキルが必要なプロジェクトへ自主的に参加することが求められる。プロジェクトが立ち上がるとプロジェクトのデジタルツインが作成される。プロジェクトが何をしているか、第三者がリアルタイムでデジタルツインをチェックすることが可能になっている。
⁃ プロジェクトの結果が出ると、デジタルツインに登録される。その際メンバーは自己申請で自身の貢献度とその評価モデルをデジタルツイン上に定義する。
⁃ 予算という概念がテスラではなく、従業員は各人が自由に出費を判断することが認められている。出費はバーンレート(出資レート)という指標を使いデジタルツインへ登録される。またプロジェクトの成果として捻出された付加価値もデジタルツインへ登録される。個人からもプロジェクトからも、このバーンレートと創造された付加価値のバランスがポジティブであることが期待されている。
⁃ プロジェクトが始まると、最初に検証実験システムの開発がされる。検証実験システムの開発とは、事前に用意されたユニバーサルなハードとソフトの検証実験システムを使い検証実験可能なように、アプリケーションインターフェイス(API)を開発することを意味する。つまり、検証実験システムのコンフィグレーションをプロジェクトの需要に合わせてセッティングすることと、物理的アダプターのモデルをCADで作成し、3Dプリンターで作成するような作業を意味する。
⁃ プロジェクトが終了してプロジェクトの株価貢献度が算出されると、メンバーの評価に相応して持株を購入する権利が与えられる。このシステムにより、多くのテスラ従業員は大金持ちになっている。
現在テスラのアクセス可能な情報をまとめると、このようなイメージが誕生します。テスラは社員にとってガラスのように透明度を持った組織で、全ての情報に従業員はアクセスが可能だと、元従業員は供述しています[3]テスラに入社するとスマホに20数種類のアプリがインストールされます。アプリが各種デジタルツインとのインターフェイスを構成しています。。情報が全て公開されているので[4] … Continue reading、ピアコントロールが実現し、セルフコントロール、セルフオーガナイゼーションが規律正しく、暴走せずに機能します。
*ピアコントロールとは、自分の仕事、出費、付加価値創造がデジタルツインで誰にでもチェックできることで、コントロール機能が成立することを意味します。
時代と価値観が変わる
これまでにご説明した、テスラのCPSの構造は至って単純な構造をしていると考えられます。正確なモデルより、コストと時間をかけないで常時変更可能なモデルが実現しないと、リアルタイムで会社の現状を、デジタルツインを介して掴むことができません。詳細なデジタルツインは変更に時間と手間がかかり、絶えず変容する会社の状況を反映するためには不都合です。さらに、ごくわずかな時間でデジタルツインへの登録を済ませることができる環境でないと、生産性が落ちてしまいます。「モデルが正確であるほど高い評価を得られる」時代から、「必要最低限の正確性を持ったアバウトな情報を頻繁に変更できるモデルの方が高評価」という時代に時代が変わりつつあります。私達の常識「正確であればあるほど価値が高い」が崩れようとしています。
また、GMのアルフレッド・スローンが50年代に導入した、事業部制組織と複階層の管理システムの賞味期限が切れ、フラットなセルフマネジメントとセルフオーガナイゼーションが機能する組織の時代が到来しようとしています。そして、ソフトウエアでテストが出来るようになると、「失敗はプロジェクトを成功へ導く道標」「早く目標達成を実現するために、矢継ぎ早に多くのチャレンジを試み実験をする」というイーロン・マスクのコンセプトが有効になります。ソフトウエアの実験は、必要なソフトウエアが開発されていれば、実験自体はただも同然で、何回実験を繰り返しても、大したコストがかかりません。物理的実験もカストマイズされた一回で使い捨ての実験では莫大なコストがかかりますが、万能な実験システムがいくつか用意されていれば、アダプター(API)を製造するだけでテストが可能です。このブログシリーズの投稿で、『使い捨てロケットで人工衛星を大気圏外へ打ち上げるコストが28500ドル/kgであるのに対して、フル再利用可能なロケットの場合10ドル/kgになる』とご紹介しました。万能実験システムの導入で、ハードウエアテストのコストも劇的に低下して、全く新しい考え方ができるようになるようです。「成功させるために実験をする」時代から、「とにかくコストをかけないで実験をして、失敗することにより、目標達成を早く実現するための情報を獲得して、誰よりも早く結果を出す」という考え方が常識となる時代が訪れようとしています。
CPSはGDfindiを使えばすぐに手が届く
CPSは高嶺の花とお考えの方が多いのではないかと思います。確かにテスラはAIで世界のトップを争う、ソフトウエア開発技術最高峰の企業です。そのために、普通の企業で真似ができないソフトウエア資産の構築が可能です。ところが、生産システムに限りましては、レクサー社のGDfindiが簡単にCPSのデジタルツインを構築することを可能にしています。
GDfindiの構造化されたモデルは現在シミュレーションモデルに使われていますが、構造化されているが故に、デジタルツインとして機能し、適切なソフトウエアが備われば、多様な用途にGDfindiモデルをデジタルツインとして使うことができます。そしてシミュレーションの世界では現在「正確なシミュレーションが優秀なシミュレーション」と言う間違った考え方が蔓延っています。5年前は世界中が電気自動車は遠い未来の夢物語というスタンスをとっていましたが、現在は各社必死で電気自動車の開発を進めています。同じように、「簡単に、低コストでコピペ編集ができ、沢山のシミュレーションを打てる」が優秀なシミュレーションの特徴であるという認識がメインストリームになる時代は既に目と鼻の先まで来ています。従来の常識を捨てて、イーロン・マスクのように考え方を変えると、コピペ編集で簡単低コストにシミュレーションモデルが再利用できるGDfindiに、古い考え方では把握できない巨大なポテンシャルを開拓できる事実が待っています。本ブログの「管理者のためのGDfindi講座シリーズ」ではGDfindiの使い方をご紹介しております。
Ando Mahito
中学時代にドイツに渡航。カールスルーエ工科大学にて、機械工学を専攻の後、PhDを取得。卒業後は、シーメンス社やボッシュグループにて、プロジェクトマネジメントおよび経営企画、社内コンサルティングに携わる。
現在では、株式会社レクサー・リサーチ、フラウンホーファー財団IPA研究所と共同開発契約を結び、シミュレーション系最大手エンジニアリング会社と協力関係構築から生産シミュレータGD.findi のドイツ市場開拓に従事。
関連記事
脚注[+]
↑1 | テスラが生産する車には一台ごとにデジタルツインが作成されます。サービスはデジタルツインを検索すれば全てのスペックとサービス経歴がわかるようになっているので、量産車でもどんどん改善が導入されます。元従業員の供述では、1車種当たり、1週間に27件の改善がされると報告されています。他社がデザインを2年凍結すると仮定しますと、その期間にテスラは4212件の改善を実施する計算になります。元従業員はテスラの開発スピードは欧米自動車企業の約20倍、トヨタの10倍と供述しています。 |
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↑2 | ショートポジション戦略とは、株価が下落すると読み、株を高く売り、下落した株を買い戻し、利益を上げる戦略を意味します。主に信用取引で、担保をもとに取引がされる場合に使われます。 |
↑3 | テスラに入社するとスマホに20数種類のアプリがインストールされます。アプリが各種デジタルツインとのインターフェイスを構成しています。 |
↑4 | イーロン・マスクは2020年のAFAカンファレンス(AFAは米空軍支援団体)でIP資産を守る方法について問われました。彼は存在するIP資産を守ることにエネルギーを注ぐことを不効率であると指摘しています。競争力を維持するためには、IP資産を守るのではなく、最先端の技術を開発することが必要だと説いています。 |