ドイツの風 │ Ando Mahito

GDfindi との出会い

GDfindi との出会い、そして私が GDfindi のマーケティングをドイツで始めた当時の逸話をご紹介します。ドイツの研究機関がGDfindiをどの様に受け止めたのでしょうか?

この投稿により皆さんの GDfindi への理解が深まることを期待します。

ちょうど2016年の9月のことです。ことの発端は、レクサーの中村昌弘社長との出会いでした。当時、私の妻がドイツ・バーデンヴュルツブルク州政府の経済振興組織で日本担当をしており、東京で自動化技術の日独シンポジウムを開催しました。このシンポジウムに、中村社長が講演者として招待されたのです。たまたま日本へ出張していた私がシンポジウム前夜講演者と関係者の会食へ招待され、中村社長と話が弾んだのがきっかけでした。その後、頻繁にメールを交換している内に、中村社長からGDfindiのドイツにおけるマーケティング活動を依頼されました。GDfindi のことは何も知らず、ただ中村社長の人柄に惚れて承諾しました。

取り敢えずフラウンフォーファー財団生産技術研究所(IPA)、カールスルーエ工科大学(KIT)など幾つかのドイツ研究組織とアポを取りドイツサイドがGDfindiをどのように評価するか確かめ、GDfindi のプロモーションを継続するか決めることにしました。結論から入りますと、GDfindiの評価は2極に分かれましたが、確実な手応えを感じました。

IPAとKITの門を叩く

インダストリー4.0の旗頭的存在のIPAは、GDfindi に対して強い関心を示しました。IPAはドイツ政府の要請で2015年に安倍首相へインダストリー4.0を説明したことで、日本でも注目を浴びた研究所です。IPAは生産シミュレーションの老舗プラント・シミュレーションが開発された由緒ある研究所でもあります。シミュレーションの現状に囚われない抽象的思考が出来、直ぐにGDfindiがインダストリー4.0構想の中で大きな役割を果たすポテンシャルを確信してくれました。そして現在、共同研究に合意してGDfindiを使った研究が進められています。[1] … Continue reading

またKIT(カールスルーエ工科大学)のIMI研究所(エンジニアの為のIT研究所)のオブチャロバ教授は面白い話をしてくれました。「現在IT業界で主流のソフトウエアのアーキテクチャーは30年前に構築されており、最新のIT技術の観点から見ると時代遅れのアーキテクチャーである。[2] … Continue reading残念ながら膨大なアプリケーション資産が足枷となり、最新のIT技術の観点から飛躍的性能の向上を実現できる新アーキテクチャーを構築出来るにも関わらず、古いアーキテクチャーを捨てるリスクを負う経営判断が出来ないでいる。その為に、技術革新のスピードが年々鈍くなっている。GDfindi の様に最新のIT技術を使ったアーキテクチャーを持ったソフトウエアが出現することは素晴らしい。」と歓迎してくれたのです。

シーメンスの苦闘

オブチャロバ教授の話に思い当たるエピソードがあります。シーメンス社は90年代の初めにCNCコントローラーのアーキテクチャーを更新しました。当時840Dという名称で知られたCNCコントローラーは数年間アプリケーションの品揃えが完了するまで市場で大変苦戦しました。その反面、新アーキテクチャーで身軽になった為に、古いアーキテクチャーのテクニカル・デプトに苦しみ、CNCの性能を向上させる速度が遅くなる競合メーカーに対して善戦していると聞いています。テクニカル・デプトとはアーキテクチャーの上に乗るソフトウエアが肥大化しパーフォーマンスを向上する為に必要な開発工数がどんどん大きくなる事を意味します。[3] … Continue reading

GDfindi との出会い

春の技術、秋の技術

そこで思い出すことが、トヨタの技術における世代交代を判断された際の次の考察です。「古い技術は成熟しており、そのポテンシャルを出し切っている。開発に投資をしても大きな飛躍は見込めない。新しい技術は比較をするとまだ既存の技術の評価レベルへ達していないことがあるが、大きなポテンシャルを秘めている。トヨタは多少新技術が旧技術に比較試験で劣っても新技術を優先的に考慮する。」

2010年に「Flash論争」がありましたが、アップルのスティーブ・ジョブスがトヨタの考えをわかりやすく説明しています。「技術にはライフサイクルがあり、春、夏、秋を経て冬を迎えると技術の墓場の仲間入りをする。そしてアップルには限られた開発資源しか無く、限られた開発資源を出来るだけ有効に投資するのが経営者の責任である。だからアップルは春を迎えた技術に投資をする。秋の技術に投資すると投資のリターンが限られている。Flashは秋の技術であり、HTLは春の技術である。だからアップルはHTLへ投資をする。」

「従来型シミュレーションは秋の技術で、GDfindi は春の技術である」はとても分かりやすいマーケティングのキャッチフレーズです。

GDfindi との出会い
出典:エンガジェット 日本版

プログラマーの自己防衛

反対派は主に2種類あります。その一つは従来型シミュレーションのプログラマーです。彼等は GDfindi のことを自分たちの職場を奪う脅威だと考えています。GDfindi の評価は各企業のエキスパートが任されます。すると、彼等は決して良い評価を下しません。従来型シミュレーションに出来て GDfindi にできない事を根掘り葉掘り探して、何故 GDfindi が役に立たないか実証します。彼等は従来型シミュレーションがごく限られた狭い範囲でしか、その投資効果を満たさないという事実を無視して、従来型シミュレーションが使われる狭い範囲でGDfindiに競争を挑み従来型シミュレーションの方が優れていると言う結論を出します。GDfindi が、従来型シミュレーションの応用範囲の約20倍以上の大きな領域で、経済的にシミュレーションを実現し、生産性の向上に貢献できるという事を無視しています[4] … Continue reading


従来型シミュレーションの使い方に束縛されていては、GDfindi の評価をすると良い結果が出ません。ガソリン車の航続距離は600km、ディーゼル車は1000km以上だから、電気自動車はダメだと言う理屈に似ています。排気ガスで生じるコストは比較で完全に無視されるわけです。ガソリン車の土俵で電気自動車の評価をしては、正当な結果が得られません。しかし、従来型シミュレーションのエキスパートにも良い知らせがあります。GDfindi が普及すると、従来型シミュレーション のエキスパートにも明るい将来が待ち受けているのです。このテーマの詳細は別の投稿でご説明します。

スタンダードという壁

2番目の反対派は正確には反対派ではありません。彼等の会社ではシミュレーションのスタンダードが確立されており、スタンダードに認定されていないシミュレーションを使うことが禁止されているのです。GDfindi を新しいスタンダードにするプロセスは3年から5年かかるそうですので、誰も進んで新しいスタンダードを提案しようとしません。
成る程、GDfindi を従来型シミュレーションの置き換えと考えると、普及が難しいですが、「GDfindi は従来型シミュレーションが対応できない広い領域で新たな付加価値を創造する」と位置付けると、明るい将来が見えて来ます。

GDfindi との出会い

まとめ

ドイツの反応をまとめますと下記の様になります。

  • インダストリー4.0構想の一つの柱になるという大きな期待
  • 最新IT技術を反映したアーキテクチャーへ対する期待
  • 春の技術(GDfindi)への投資の方が秋の技術(従来型シミュレーション)より投資効率が優れている
  • プログラマーはプログラミングレスの GDfindi を敵対視する(まだ GDfindiと共存し活躍できることを知らない)
  • 大企業のスタンダード化が GDfindi の導入を拒む

本ブログではGDfindiの特徴、将来像、そしてドイツ経済、製造業の動向など皆さんが関心を持ちそうなテーマを拾い投稿をして行きたいと考えています。もしご興味のあるテーマ、またはご質問がありましたらば、是非コメントください。読者の方々と対話をすることでより質の高い投稿を目指します。

また脚注とマークされている箇所には脚注で解説を用意いたしました。是非ご参照下さい。

GDfindi との出会い
Ando Mahito

中学時代にドイツに渡航。カールスルーエ工科大学にて、機械工学を専攻の後、PhDを取得。卒業後は、シーメンス社やボッシュグループにて、プロジェクトマネジメントおよび経営企画、社内コンサルティングに携わる。

現在では、株式会社レクサー・リサーチ、フラウンホーファー財団IPA研究所と共同開発契約を結び、シミュレーション系最大手エンジニアリング会社と協力関係構築​から生産シミュレータGD.findi のドイツ市場開拓に従事。

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脚注

脚注
1 
IPAはインダストリー4.0のプラットフォームとしてVFK(バーチュアル・フォート・ノックス)を開発しました。VFKは生産システムの複雑なニーズに対応したアーキテクチャーを備えたIoTプラットフォームです。IT主導で構築されたプラットフォームを生産システムのニーズへ対応させようとすると、アプリケーションレイヤーで様々な対応が必要となり、複雑性が生産性を妨げます。VFKはアーキテクチャーレベルで生産システムのニーズへ対応しているので、アプリケーションレベルでの負担が低減されます。VFK GmbHと言う民間会社が設立されVFK技術の普及と商業化を推し進め、フラウンフォーファー財団の生産技術へ関わる7つの研究所が研究開発用VFKネットワークを構築して、VFKの開発を行っています。研究開発用VFKで研究開発され実証された技術が商用VFKへ転換され市場へ提供される構造になっています。レクサーはフラウンフォーファー財団 と共同開発契約を結び、研究開発用VFKサーバー内の独自のバーチュアル空間にGDfindiサーバーを設置し、フラウンフォーファー財団の研究開発を支援しています。
2

インテルの共同創立者ゴードン・ムーアの法則「CPUは2年毎に同じコストでパーフォーマンスを倍増する」は有名ですが、オプチョロバ教授の指摘は、80年代に開発されたソフトのアーキテクチャーは当時のIT技術のレベルを反映しています。40年経った現在では、80年代前半の約100万倍の演算能力が実現しています。プログラミング言語の世界では、時代と共に次々と高度なプログラミング言語が開発され、プログラマーの生産性の向上に貢献しています。但し、巨大なソフトウエア資産を構築した組織は、ソフトウエア資産の書き換えコストが膨大な為に古いアーキテクチャーを使い続けているケースも少なくありません。オブチャロバ教授の指摘は、現在のIT業界で主流のソフトウエアのアーキテクチャーは老朽化しており、効率が年々落ちていると示唆しています。効率を上げる為に最新IT技術を反映したアーキテクチャーへ書き換えられるべきですが、膨大なソフトウエア資産を書き換えなければならない為に、新しいアーキテクチャーを導入する経営リスクを負えないでいるのです。

何故IT技術は進化するのでしょうか?IT技術には、操作性と応答性の妥協という論点があります。操作性を高める為には高いバックグラウンド演算能力が必要ですが、反対にかかる応答時間が長くなります。ユーザーは、ソフトウエアの応答時間が大きいと不快感を覚えます。80年代に構築されたソフトウエア・アーキテクチャーは、当時の演算能力で不快感を与えない応答時間を実現できる様に設計されています。年々CPUの演算能力が高まる為に、ソフトウエアの性能は向上しますが、アーキテクチャーは変わりません。アーキテクチャーをリニューアルすると、同じ機能の開発時間が大幅に縮小されます。身近な分かりやすい例が高度なリアルタイム性を要求されるソフトウエアの場合です。演算能力がリアルタイム性の実現に足りないと、画一主義的なソフトウエア・アーキテクチャーを採用して可能な限り応答時間の短縮が試みられます。ところが、一度演算能力がリアルタイム性の要求する応答時間を満たすと、モジュール化されたソフトウエア・アーキテクチャーを導入した方が開発効率が劇的に向上します。 つまり、応答性が悪く、商品として使い物にならなかったモジュール化されたソフトウエア・アーキテクチャーがムーアの法則により演算スピードが要求演算スピードを満たすと、一転して遥かに優秀なソフトウエア・アーキテクチャーに変容するのです。シリコンバレーのIT創業者たちは10年後に実現する演算スピードに焦点を当てて、ソフトウエア・アーキテクチャーの開発をすると聞きます。ソフトウエア業界でブルーオーシャン戦略を実現する場合、10年後のC P U演算能力を100%応用できるソフトウエア・アーキテクチャーが競合を寄せ付けない競争力の秘密になるわけです。

GDfindiは2012年に商品化されましたので、当時の最新のIT技術を最大限に活用したソフトウエア・アーキテクチャーを持っています。きっと2000年のCPU演算能力では応答性が悪く使い物にならないソフトウエア・アーキテクチャーなのでは無いかと考えます。それがどの様に顧客のメリットになるのでしょうか?プログラミングを必要としない為にユーザーの閾値が劇的に低くなりました。最近の自動車のアシスタンス機能がドライバーの負担を低減する様に、GDfindi のアシスタンス機能機能は生産システムのモデル化を誰にでも出来るレベルへ改善したのです。GDfindi はモデリングの負担を劇的に低減します。 そして、GDfindi はアプリケーションを実現するプラットフォームに変容しました。そのため、従来型シミュレーションへ対しての優位性は年々広がっています。

3テクニカル・デプトとは質の悪いソフトウエアを拡張する際に質の良いソフトウエアを拡張するより余計工数がかかることを意味します。正確にはソフトウエア開発で手抜きがあると、その後のソフトウエア開発でツケが回ってくることを意味します。ここでは、古いアーキテクチャーを更新しないことも手抜きと考えています。
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従来型シミュレーションはシングルショット・シミュレーションです。一発のシミュレーションでターゲットの検証をする訳です。複数のシミュレーションをすることはモデリングの編集コストが高い為に経済的に実現しない構造になっています。

GDfindi ではモデルに高い再利用性と編集性がある為に、複数のシミュレーションを経済的に実現できます。解空間の中に複数のシミュレーション結果を実現出来ると、シミュレーションがソリューションツールに変容します。つまり、GDfindi はアプリケーションを開発するプラットフォームに変容しているのです。この為にGDfindiは従来型シミュレーヨンの100倍以上の応用範囲を開拓できるポテンシャルを持っており、従来型シミュレーションの手に届かない領域で付加価値を捻出することが出来るので、まさにゼロから1の創造を実現いたします。このテーマの詳細は今後のブログ投稿のテーマとしてカバーいたします。