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ドイツの風 │ Ando Mahito
製造業のチャレンジ:
ドイツの動向が刺激になる
激しい時代の変化に直面して悩むのは日本の企業だけではありません。
「ドイツと日本は世界的に観ても似たような境遇にある。ドイツ人が何を考えているか物凄く興味がある。別の観点からの発想、刺激が喉から手が出るほど欲しい。」とは、私の知り合いのごく一部の人達の声でしょうか?
長年日本が東の横綱であればドイツが西の横綱として世界の産業界をリードしてきました。そして両国が新しいチャレンジに遭遇しています。歴史、文化、宗教、習慣が全く違うが、世界的に見ると非常に似た境遇にあるドイツと日本です。どのようにチャレンジを克服しようとしているのか、興味があるけれど情報が乏しい。何か別の観点があれば、参考にしたい。行き詰まった自分の思考に、新しい刺激が欲しい!
自分達に無い発想が有れば、その刺激が新しい構想展開の起爆剤になる。そのような期待に応える為に本ブログで情報発信を始めます。
似ているようで遠いドイツ
ボッシュグループの自動化機器メーカーの日本事業を立ち上げていた時期の話です。出張で日本からドイツ本社へ帰り、社長へ挨拶すると、まず行く先はサービス部門です。何か新しいトラブルがなかったか、そしてそのトラブルがどのように解決されたか確認しに行きます。そして工場をひと回りして、配置が変わっていれば何故変更したか説明を聞いてから技術開発部へ顔を出します。日本とドイツでは顧客対応への考え方が違うので、丁寧に顧客の考え方を説明しなければなりません。
日本とドイツは非常に似ているようで、細かい点が大きく違います。そして、それを無視すると大変痛い失敗をします。世界中見回しても日本ほどドイツと違う国はありません。片方で似ていると主張しながら、片方で違うと言う主張は確かに矛盾があるように見えます。ですが、自動化技術メーカーの観点からしますと、日本ほどドイツから遠い国はないのです。ドイツメーカーが世界中どこへ行っても、顧客はドイツのスタンダードを認めます。ところが、日本は長年キリスト教文化圏外で唯一の高度な産業国の伝統と文化を築いた国ともいえます。ですから日本は独自の考え方を持っています。ドイツの技術開発部にとっては、日本が一番遠く、そして難しい市場なのです。
トヨタとの出会い
日本市場で最も難しいと言われる顧客がトヨタです。入社2〜3年の若い技術屋さんでも「それは納得できません」と遠慮なくズケズケと主張して来ます。これは素晴らしいことだと思いました。トヨタへ納品する機械のプロジェクトを担当したトヨタ系企業のプロジェクトマネジャーは「安藤さん頑張ってください」と無理難題を次から次へと出してきます。「もしトヨタへ納品した後にトラブルが発生すると、私たちは死ぬ思いをしなければなりません。ですから事前に万全の対応が必要です。」とプロダクトマネジャーは説明します。「でも、一度トヨタへ機械を納品できれば、日本中どこへ行っても『トヨタで実績がある』と言えば、必ずドアが開きます。だから辛抱して私達と付き合って頑張ってください。」
その後、数年経ったドイツ本社技術開発部の逸話です。「あの頃は日本から電話が来るとウンザリした。『もういい加減にしてくれ』が本音だった。ところが、トヨタへ納品して以来、世界中どこへ納品しても一切クレームが出ない。」フランク・シナトラの有名なヒット曲に「ニューヨークで成功すれば、どこへ行っても成功する」と言う歌詞がありますが、技術開発の同僚にとってニューヨークは日本だったのです。これはドイツ企業が体験した日本でしか出来ない逸話です。また逆方向でも、ドイツの優良企業から日本では得られない刺激が別の角度から得られると確信しています。
文化が違うドイツだから面白い
ある日本から来られたお客さんがおもしろい感想を話してくれました。「ドイツは不思議な国ですね。マーチン・ルター、カール・マルクスとかジークフリード・フロイドなど、ドイツ人は世界を変えるようなこと考える。」確かにドイツ人は革命が好きなのかもしれません。環境が変わると、新しいルールを作るのがドイツの文化です。
ですから、デジタルトランスフォーメーションも、ただのデジタル化ではなく新しい秩序を作るのがドイツのスタイルです。インダストリー4.0に関しては、日本でも色々と報道されていますが、日本流に解釈された報道が主流です。ドイツの直面するチャレンジを理解すると、インダストリー4.0への理解が深まります。このテーマは別の投稿でお話しいたします。
ドイツのアプローチは日本と全く違う場合が多いのです。それが良いか悪いかではなく、違う観点、違うアプローチを知ることが刺激となり、皆さんの発想に新しい展開が実現することを期待します。所詮、アメリカやドイツの真似をしても、日本の持つ環境で成功する確率はあまり高くないはずです。ただし背景を理解すると、日本の環境に適応する道が開けます。
難しいから挑戦する
2021年10月26日の日経ビジネスイノベーションフォーラム「サイバーフィジカル経営戦略 ~ヒトとデータの共創が描く持続可能な製造業とスマート社会の未来~」でフラウンホーファ財団IPA研究所のデジタルコンピテンスセンターのザイデルマン所長がインダストリー4.0と資産管理シェルの開発状況について講演されました。準備のミーティングで、ザイデルマン氏は日本との協力関係の重要性を強調していました。
ドイツでは組織単位、または企業単位で達成できる付加価値よりもっと大きな付加価値を企業同士が連携することにより実現出来ることに注目しています。ドイツが熱心な標準化運動も企業単体のレベルアップよりも、業界全体または企業集合体のレベルアップを実現する方が得策という考えが原動力になっています。同じ価値観を共有しないと、企業間の連携が思うように進みません。
ただし、ドイツや日本の様に製造業の伝統と文化があると連携がしやすいのです。そして連携を実現するのが難しいから、あえて連携を実現するのです。何故ならばそれが実現した時に継続性のある差別化が誕生するからです。ザイデルマン氏は日本とドイツの連携に積極的です。難しいことは承知の上で、難しいから連携を試みる。インダストリー4.0も同じ思想の上にあり、実現が困難だからあえて挑戦する。これは今後の投稿のテーマですが、例えば資産管理シェル[1] … Continue readingの実現は難しいが、実現できる環境はドイツに揃っている。揃っている国は世界広しといえどドイツと日本ぐらいです。ですからドイツは資産管理シェルの実現に挑戦します。そして日本との連携に意欲的なのです。
本投稿の狙い
ドイツ社会の構造も、産業界の構造も、そしてドイツ人の考え方も日本と違います。それがドイツの魅力です。世界的に見ると非常に似た境遇、環境にいる両国が違った発想、思想で似たようなチャレンジへ立ち向かおうとしています。ドイツの情報は日本の刺激になりますし、反対に日本の情報はドイツの刺激になります。
本投稿では日本であまり紹介されないドイツ、特に製造業にとって関心の深いドイツの側面にスポットライトを当てます。また、情報化社会にて著しく変化する企業環境を追い風に成長する企業のプロファイルに迫ります。日本にもユニークな企業が沢山ありますが、ドイツ企業のユニークな例を紹介していきます。目標は読者の刺激になる投稿です。読者の皆さんの発想を飛躍的に展開されるきっかけになる刺激が目標です。レクサー社は画期的な生産システムシミュレーションGD.findi を開発し、製造業の発展への貢献を志しています。本投稿も製造業の発展に貢献できることを願い発信いたします。
Ando Mahito
中学時代にドイツに渡航。カールスルーエ工科大学にて、機械工学を専攻の後、PhDを取得。卒業後は、シーメンス社やボッシュグループにて、プロジェクトマネジメントおよび経営企画、社内コンサルティングに携わる。
現在では、株式会社レクサー・リサーチ、フラウンホーファー財団IPA研究所と共同開発契約を結び、シミュレーション系最大手エンジニアリング会社と協力関係構築から生産シミュレータGD.findi のドイツ市場開拓に従事。
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